越境覚書とは?売却前に作成する理由と注意点を土地家屋調査士の視点で解説

土地や建物を売却するときに、隣地との間で「越境」が見つかることがあります。

たとえば、ブロック塀、フェンス、屋根、雨樋、庇、樹木、配管、建物の基礎などが、隣の土地にはみ出しているケースです。

このような場合、不動産会社や買主から、

「越境覚書を作成してください」
「隣地所有者と越境について確認しておいてください」
「将来撤去する旨の覚書が必要です」
「越境物があるままだと売却しにくいです」

と言われることがあります。

結論からいうと、越境覚書とは、隣地との間で越境物の存在や今後の対応について確認し、書面に残すものです。

越境物があるからといって、必ずすぐ撤去しなければならないわけではありません。

しかし、売却、相続、建て替え、確定測量の場面では、越境物を放置すると後からトラブルになることがあります。

この記事では、越境覚書とは何か、作成する理由、対象になりやすい越境物、記載内容、作成時の注意点、土地家屋調査士に相談すべきケースをわかりやすく解説します。

目次

越境覚書とは?

越境覚書とは、隣地との間で越境物がある場合に、その事実や今後の対応を確認して書面に残すものです。

たとえば、自分の土地にあるブロック塀が隣地側に越境している場合や、隣地の建物の雨樋が自分の土地側に出ている場合などに作成されることがあります。

越境覚書には、一般的に次のような内容を記載します。

項目内容
対象土地どの土地とどの土地の間の越境か
越境物ブロック塀、屋根、雨樋、樹木など
越境の位置どの部分がどの程度越境しているか
現状確認当事者が越境の存在を確認したこと
今後の対応将来撤去、再築造しない、建て替え時に是正するなど
費用負担撤去や是正の費用を誰が負担するか
承継売買や相続があった場合の扱い
添付資料測量図、越境図、写真など

越境覚書は、法務局に登記する書類ではありません。

あくまで、隣地所有者同士で越境の状況と今後の対応を確認するための書面です。

越境覚書が必要になる場面

越境覚書は、特に土地や建物の売却前に必要になることが多いです。

なぜなら、買主は購入後に隣地とのトラブルを抱えたくないからです。

代表的な場面を整理します。

場面越境覚書が必要になりやすい理由
土地売却買主に越境状況を説明する必要がある
建物付き土地の売却屋根・雨樋・庇などの越境が見つかりやすい
確定測量境界確認時に越境物が判明することがある
相続不動産の整理古い塀や建物が境界を越えていることがある
建て替え前既存建物や塀の越境を整理する必要がある
隣地から指摘された場合トラブル防止のため書面化することがある

特に売却時には、不動産会社や買主側の司法書士、金融機関から、越境覚書の作成を求められることがあります。

越境物になりやすいもの

越境物にはさまざまな種類があります。

土地の上だけでなく、空中や地下の越境も問題になることがあります。

越境物の種類具体例
地上の越境ブロック塀、フェンス、擁壁、門柱、植栽
空中の越境屋根、庇、雨樋、看板、樹木の枝
地下の越境建物の基礎、配管、排水管、擁壁の一部
境界付近の工作物コンクリート土間、階段、駐車場舗装
自然物樹木の枝、根、竹木など

越境は、現地を見ただけでは判断できないこともあります。

ブロック塀やフェンスが境界線上に見えても、実際には数センチずれていることがあります。

また、屋根や雨樋のように空中で越境しているものは、測量や現地確認をしないと気づきにくい場合があります。

越境覚書を作成する目的

越境覚書を作成する目的は、単に「越境があります」と書くだけではありません。

重要なのは、将来のトラブルを防ぐことです。

越境の存在を当事者同士で確認するため

まず、越境物が存在することを隣地所有者同士で確認します。

「どちらの物が、どちらの土地に、どの程度越境しているのか」を書面化することで、後から認識の違いが起きにくくなります。

すぐ撤去しない場合の扱いを決めるため

越境物があっても、すぐに撤去できないことがあります。

たとえば、建物の屋根や基礎が越境している場合、すぐ撤去するには大きな工事が必要です。

このような場合に、

「現状はそのまま認める」
「建て替えや改修の際に是正する」
「今後同じ位置に再築造しない」

といった内容を覚書で確認することがあります。

買主に説明できる状態にするため

不動産売却では、買主に越境の状況を説明する必要があります。

越境覚書があれば、買主に対して、

「越境物はありますが、隣地所有者と確認済みです」
「将来の撤去や再築造について合意があります」

と説明しやすくなります。

ただし、越境覚書があれば必ず売却できる、必ずトラブルがなくなる、というわけではありません。

内容や相手方、買主の判断によって扱いは変わります。

越境覚書を作る流れ

越境覚書は、いきなり書面を作るのではなく、現地確認と資料確認をしたうえで作成するのが安全です。

【越境覚書を作る流れ】

① 境界資料を確認する
 ↓
② 現地で越境物を確認する
 ↓
③ 越境の位置・範囲を測量する
 ↓
④ 隣地所有者に状況を説明する
 ↓
⑤ 今後の対応を協議する
 ↓
⑥ 越境覚書を作成する
 ↓
⑦ 当事者が署名押印する
 ↓
⑧ 測量図・写真などと一緒に保管する

この流れで進めると、後から「聞いていない」「そこまで越境しているとは思わなかった」というトラブルを防ぎやすくなります。

越境覚書に記載する内容

越境覚書には、越境の内容や今後の対応をできるだけ明確に記載します。

一般的には、次のような項目を入れることがあります。

対象土地の表示

どの土地とどの土地の間の覚書なのかを明確にします。

住所ではなく、登記上の所在や地番を確認して記載することが重要です。

土地の表示を誤ると、どの不動産についての覚書なのか不明確になります。

越境物の内容

何が越境しているのかを具体的に記載します。

たとえば、

  • ブロック塀
  • フェンス
  • 屋根
  • 雨樋
  • 建物の基礎
  • 樹木の枝
  • 樹木の根
  • 配管

などです。

「工作物」など抽象的に書きすぎると、後からどの物を指しているのかわかりにくくなることがあります。

越境の位置と範囲

越境の位置や範囲も重要です。

可能であれば、測量図や越境図を添付し、どの部分が何センチ越境しているのかを明示します。

文章だけで説明するよりも、図面や写真を添付した方がわかりやすいです。

現状を容認するかどうか

すぐ撤去しない場合は、現状をどのように扱うのかを記載します。

たとえば、

「現存する越境物については、当面の間、現状のまま存置することを相互に確認する」

というような内容です。

ただし、容認する範囲や期間があいまいだとトラブルになるため、できるだけ具体的にしておく必要があります。

将来の撤去・是正について

越境覚書では、将来の対応が重要です。

よくある内容は、次のようなものです。

将来の対応内容
建て替え時に是正建物を建て替えるときに越境を解消する
改修時に是正屋根・雨樋などを改修するときに越境を解消する
撤去時に再築造しない既存物を撤去したら同じ位置に作り直さない
将来撤去する一定の時期や条件で撤去する
費用負担を決める誰が撤去費用を負担するか決める

特に売却時には、買主が将来同じトラブルを引き継ぐ可能性があります。

そのため、将来の対応を明確にしておくことが大切です。

所有者が変わった場合の扱い

土地や建物は、売買や相続によって所有者が変わることがあります。

越境覚書では、所有者が変わった場合に、覚書の内容を新しい所有者にも説明・承継する旨を記載することがあります。

ただし、覚書の内容が当然にすべての第三者に強く対抗できるとは限りません。

法的な効力を重視する場合や、将来の承継まで厳密に考える場合は、弁護士に相談して内容を確認することをおすすめします。

越境覚書を作成するときの注意点

越境覚書は便利な書面ですが、作ればすべて解決するわけではありません。

作成時には次の点に注意しましょう。

筆界や所有権界を変える書面ではない

越境覚書は、越境物の存在や対応を確認する書面です。

筆界を変更する書面ではありません。

筆界は登記上の土地と土地の境界であり、当事者の覚書だけで自由に動かせるものではありません。

また、土地の所有権の範囲を変更する場合には、売買、贈与、分筆、所有権移転登記など別の手続きが関係することがあります。

測量図や写真を添付する

文章だけの覚書では、越境の位置や範囲があいまいになることがあります。

できれば、土地家屋調査士による測量図、越境図、現地写真などを添付するとよいでしょう。

図面と写真があると、買主や隣地所有者にも説明しやすくなります。

感情的な文言を入れない

越境問題では、隣地との関係が悪化していることもあります。

しかし、覚書には感情的な表現を入れず、事実と合意内容を整理して記載することが大切です。

「迷惑をかけた」「今後一切文句を言わない」などの表現は、法的な意味が不明確になることがあります。

必要に応じて専門家に文案を確認してもらいましょう。

法的紛争がある場合は弁護士に相談する

越境物を撤去するかどうか、損害賠償を求めるかどうか、所有権を争うかどうかといった問題は、法律判断が必要です。

土地家屋調査士は、境界確認や測量、越境状況の図面化を行う専門家です。

一方で、法的請求や紛争対応は弁護士の分野です。

すでに揉めている場合は、土地家屋調査士と弁護士の両方に相談することもあります。

越境覚書と土地家屋調査士の役割

越境覚書を作成する場面では、土地家屋調査士が関わることがあります。

土地家屋調査士の主な役割は、越境状況を客観的に確認し、図面や資料として整理することです。

具体的には、次のような業務が関係します。

業務内容
資料調査公図、地積測量図、境界確認書などを確認
現地測量境界点や越境物の位置を確認
越境図の作成どの部分が越境しているか図面化
境界確認隣地所有者との立会いを行うことがある
確定測量売却前に土地全体の境界を確認
専門家連携不動産会社・司法書士・弁護士と連携

土地家屋調査士は、越境覚書の前提となる「どこに境界があり、何がどの程度越境しているか」を確認する専門家です。

覚書そのものの法的効力や紛争対応については、弁護士に確認するのが安全です。

よくある質問

Q. 越境覚書とは何ですか?

越境覚書とは、隣地との間で越境物がある場合に、その存在や今後の対応を確認して書面に残すものです。

ブロック塀、屋根、雨樋、樹木、基礎などが対象になることがあります。

Q. 越境覚書を作れば越境物を撤去しなくてよいですか?

必ず撤去しなくてよいというわけではありません。

現状を当面認める、将来建て替え時に是正する、再築造しないなど、覚書の内容によって扱いが変わります。

Q. 越境覚書で境界を変えることはできますか?

できません。

越境覚書は、越境物の存在や対応を確認する書面です。

筆界を変更するには、分筆登記や合筆登記など別の手続きが関係します。

Q. 越境覚書は誰が作りますか?

不動産会社、土地家屋調査士、司法書士、弁護士などが関係することがあります。

越境状況の測量や図面化は土地家屋調査士、法的な文案確認や紛争対応は弁護士に相談するのが安全です。

Q. 売却前に越境覚書は必ず必要ですか?

必ず必要とは限りません。

ただし、越境物がある場合、買主や不動産会社、金融機関から作成を求められることがあります。

売却をスムーズに進めるためには、早めに確認しておくと安心です。

まとめ|越境覚書は売却前のトラブル予防に重要

越境覚書とは、隣地との間で越境物がある場合に、その存在や今後の対応を確認するための書面です。

特に土地や建物の売却前には、越境覚書が重要になることがあります。

重要なポイントは次のとおりです。

  • 越境覚書は、越境物の存在と今後の対応を確認する書面
  • ブロック塀、フェンス、屋根、雨樋、庇、樹木、基礎などが対象になる
  • 売却前、確定測量、相続不動産の整理で必要になることがある
  • 越境覚書は筆界や所有権界を変更する書面ではない
  • 越境の位置や範囲は測量図や写真で明確にする
  • 将来撤去、建て替え時の是正、再築造禁止などを記載することがある
  • 所有者が変わる場合の扱いにも注意が必要
  • 境界や越境状況の確認は土地家屋調査士に相談する
  • 法的効力や紛争対応は弁護士に相談する

「売却前に越境が見つかった」
「隣地の屋根や雨樋が越境している」
「ブロック塀が境界を越えているかもしれない」
「買主から越境覚書を求められた」

このような場合は、自己判断で進めず、まず境界と越境状況を確認しましょう。

必要に応じて、土地家屋調査士に測量や図面作成を依頼し、法的な文案は弁護士にも確認しておくと安心です。

監修者情報

監修:北川 巧(土地家屋調査士)

独立2年目ながらも持ち前の若さと体力を活かして、顧客への迅速で新設な対応で、日々業務に取り組んでいます。不動産の表示に関する登記や土地家屋調査士の業務について一般の方目線で分かりやすくアドバイス、解説します。

監修者情報

監修:北川 巧

(土地家屋調査士)

独立2年目ながらも持ち前の若さと体力を活かして、顧客への迅速で新設な対応で、日々業務に取り組んでいます。不動産の表示に関する登記や土地家屋調査士の業務について一般の方目線で分かりやすくアドバイス、解説します。

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