土地の売却や建て替え、分筆のために公図を取得すると、敷地の中を細長い水路や道のような線が通っていることがあります。
現地ではすでに道路や水路が見当たらず、庭、駐車場、建物敷地の一部として使われているケースもあります。
このようなとき、次のような疑問が生じます。
「公図上の水路が自宅の敷地内を通っている」
「現地にはない里道が公図に残っている」
「昔から庭として使っているので自分の土地ではないの?」
「水路の上に建物を建てても大丈夫?」
「自治体から払い下げてもらうことはできる?」
「土地を売る前にどのような手続きが必要?」
結論からいうと、公図上の里道や水路が現地で見えなくても、勝手に自分の土地として扱うことはできません。
里道や水路が現在も公共用財産として管理されている場合は、まず管理者を確認し、官民境界を明確にする必要があります。
すでに公共の用途がなく、一定の条件を満たす場合は、用途廃止をしたうえで払下げを受けられる可能性があります。ただし、希望すれば必ず購入できるわけではありません。
この記事では、公図上の里道・水路の意味、建築や売却への影響、官民境界確認、用途廃止、付替え、払下げまでの流れを解説します。
公図にある里道・水路とは?
里道とは、古くから地域住民の通行に使われてきた道で、道路法上の道路として認定されていないものをいいます。
水路とは、農業用水、排水、生活用水などに使われてきた水の通り道です。河川法が適用される河川とは別に管理されているものがあります。
このような里道や水路のうち、道路法や河川法などの適用を受けない公共物は、一般に「法定外公共物」と呼ばれます。
古い公図では、里道が赤色、水路が青色で着色されていたことから、里道を「赤道」、水路を「青道」と呼ぶこともあります。
ただし、現在の公図では必ず色が付いているとは限りません。
道路法については、e-Gov法令検索「道路法」も参考になります。
現地にないのに公図に残っている理由
公図上の里道や水路が現地で見当たらない理由には、次のようなものがあります。
- 水路が暗渠化され、地中を通っている
- 道路や水路が付け替えられた
- 造成工事で埋められた
- 周辺所有者が長年、庭や駐車場として使用している
- 建物や塀が上に設置されている
- 公図や登記の整理がされていない
- 現地の利用状況だけが変わっている
- 里道や水路の位置が公図とずれている
現地に水が流れていないからといって、水路としての機能が完全になくなっているとは限りません。
地下に排水管が残っていたり、雨天時だけ水が流れたり、周辺農地の排水経路として必要だったりする場合があります。
里道についても、普段は誰も通っていなくても、隣接地への進入路や災害時の通路として使われている可能性があります。
敷地内にあるように見えても自分の土地とは限らない
公図上の里道や水路が自宅の塀の内側にあっても、その部分が自分の所有地とは限りません。
長年にわたり庭や駐車場として使っていたとしても、当然に所有権を取得できるわけではありません。
また、固定資産税の課税範囲や現地の塀だけで、土地の所有範囲を判断することもできません。
確認すべき主な資料は次のとおりです。
| 確認する資料 | 主な確認内容 |
| 公図・14条地図 | 里道・水路と周辺地番の位置関係 |
| 登記事項証明書 | 自分の土地の地番・地積・所有者 |
| 地積測量図 | 境界点・辺長・座標 |
| 旧公図・閉鎖図面 | 過去の里道・水路の位置 |
| 道路台帳・水路台帳 | 自治体による管理状況 |
| 境界確認書 | 過去に行われた官民境界確認 |
| 現地の構造物 | 側溝、暗渠、排水管、道路跡など |
公図の線だけで正確な位置を判断できない場合は、土地家屋調査士による資料調査と現地測量が必要です。
放置すると売却・建築・分筆に影響する
敷地内に公図上の里道や水路が残っていると、次のような場面で問題になることがあります。
| 場面 | 起こり得る問題 |
| 土地の売却 | 売却対象の範囲や面積を確定できない |
| 建物の新築・建て替え | 建築敷地として算入できない可能性がある |
| 分筆登記 | 元の土地の外周や隣接関係を整理できない |
| 確定測量 | 官民境界の確認が必要になる |
| 住宅ローン | 担保となる土地の範囲が不明確になる |
| 塀・造成工事 | 公共用財産を無断で使用するおそれがある |
| 相続 | 相続人が土地の範囲を誤認する |
| 開発事業 | 水路機能や行政手続きが問題になる |
特に、里道や水路を含めて敷地面積を計算していた場合、実際に所有している面積が想定より小さくなることがあります。
建築計画がある場合は、建ぺい率・容積率・接道・建物配置にも影響するため、設計を進める前に確認することが重要です。
まず管理者を確認する
里道や水路の手続きを進めるには、最初に管理者を確認します。
法定外公共物の多くは市町村が管理していますが、すべてが同じ扱いとは限りません。
土地によっては、国、都道府県、市町村、土地改良区などが関係している場合があります。
一般的な確認先は次のとおりです。
- 市区町村の道路管理担当部署
- 河川・水路担当部署
- 公有財産管理担当部署
- 農林・土地改良担当部署
- 都道府県の土木事務所
- 財務局・財務事務所
- 土地改良区
担当部署がわからない場合は、市区町村役場へ公図と地番を持参し、「公図上の里道・水路の管理者を確認したい」と相談するとよいでしょう。
官民境界確認とは?
官民境界確認とは、民有地と国・自治体などが管理する公共用地との境界を確認する手続きです。
里道や水路を用途廃止したり、払下げを受けたりする場合は、その前提として対象地の位置と範囲を明確にする必要があります。
一般的には、次の関係者が立会いに関係します。
- 申請者
- 隣接地所有者
- 自治体などの管理者
- 道路や水路の反対側の土地所有者
- 土地改良区や水利関係者
- 地域の代表者
土地家屋調査士は、公図、地積測量図、道路・水路資料、現地の境界標などを調査し、現況測量を行います。
そのうえで関係者との立会いを調整し、官民境界を確認します。
用途廃止とは?
用途廃止とは、里道や水路としての公共的な役割を廃止する行政上の手続きです。
現地で誰も通っていない、水が流れていないというだけで、自動的に用途廃止になるわけではありません。
一般的には、次のような点が審査されます。
- 現在も通行に使われていないか
- 排水や農業用水として必要ではないか
- 周辺土地の所有者が利用していないか
- 代替となる道路や水路があるか
- 廃止によって第三者に支障が生じないか
- 境界と面積が確定しているか
- 公共施設の配管などが埋設されていないか
- 将来の道路・水路計画に支障がないか
公共の用途が残っている場合は、用途廃止が認められない可能性があります。
また、周辺住民、水利関係者、土地改良区などの同意を求められることもあります。
具体的な要件や提出書類は自治体によって異なるため、必ず事前相談が必要です。
水路や里道の付替えが必要になる場合
現在も道路や水路としての機能が必要な場合、単純な用途廃止ができないことがあります。
この場合に検討されるのが「付替え」です。
付替えとは、現在の里道や水路に代わる新しい通路・水路を別の場所に設けたうえで、元の部分を廃止する方法です。
たとえば、敷地の中央を通る水路を敷地の端へ移し替えるようなケースです。
【付替えのイメージ】
敷地中央に既存水路がある
↓
自治体・水利関係者と事前協議
↓
敷地端に代替水路を計画
↓
排水能力・構造・維持管理方法を確認
↓
新しい水路を整備
↓
機能が確保されたことを確認
↓
旧水路の用途廃止を申請
付替えでは、測量だけでなく、排水計画、工事設計、工事費、維持管理なども問題になります。
自治体の承認を受けずに、勝手に水路を移動させてはいけません。
払下げとは?
払下げとは、用途廃止された国・自治体などの土地を、民間へ売却することを一般的に表した言葉です。
用途廃止が認められても、自動的に申請者の所有地になるわけではありません。
用途廃止後に売却の審査や価格決定が行われ、売買契約と代金の支払いを経て、所有権移転登記を行います。
払下げを受けられる可能性があるのは、一般的には次のような場合です。
- 公共の用途が完全になくなっている
- 単独では利用価値が低い細長い土地である
- 隣接所有者以外が利用しにくい
- 売却しても公共上の支障がない
- 境界と面積が明確になっている
- 第三者の通行・水利に影響しない
ただし、払下げを申請する権利が当然に認められるわけではありません。
自治体が引き続き保有する必要があると判断した場合や、第三者の利用がある場合は、売却されないことがあります。
用途廃止から払下げまでの一般的な流れ
手続きは自治体や土地の状況によって異なりますが、一般的には次のように進みます。
【用途廃止・払下げの流れ】
公図・登記事項証明書を確認
↓
里道・水路の管理者を確認
↓
管理者へ事前相談
↓
土地家屋調査士による資料調査・現地測量
↓
隣接地や公共用地との境界確認
↓
通行・排水・水利などの利用状況を確認
↓
必要に応じて関係者の同意を取得
↓
用途廃止を申請
↓
自治体などによる審査
↓
用途廃止の決定
↓
土地の価格を決定
↓
売買契約・代金支払い
↓
所有権移転登記
↓
必要に応じて地目変更・合筆などを行う
事案によっては、用途廃止前に付替え工事が必要になります。
また、登記されていない公共用地では、土地の表示に関する登記を先に行う場合もあります。
払下げにかかる費用
払下げでは、土地の購入代金以外にも費用がかかります。
| 費用 | 内容 |
| 測量費用 | 現地測量、官民境界確認、面積確定 |
| 境界標設置費用 | 杭・鋲などの設置 |
| 書類作成費用 | 用途廃止・払下げ申請資料 |
| 工事費用 | 水路・里道の付替えや整備 |
| 土地代金 | 自治体などが決定する売却価格 |
| 登記費用 | 表題登記、所有権移転、地目変更、合筆など |
| 税金 | 登録免許税、不動産取得税など |
| 鑑定・評価費用 | 自治体の取扱いにより必要になることがある |
多くの場合、測量や登記、付替え工事などの費用は申請者側の負担になります。
土地が細長く面積が小さくても、測量範囲が広い、隣接者が多い、官民境界が未確定といった場合は、手続き費用が大きくなることがあります。
手続きにかかる期間
用途廃止と払下げは、短期間で完了する手続きではありません。
期間は次の要素によって大きく変わります。
- 管理者の確認
- 過去資料の有無
- 官民境界確認の難易度
- 隣接所有者の人数
- 相続登記未了の隣地の有無
- 水路や里道の利用状況
- 関係者の同意
- 付替え工事の有無
- 自治体の審査期間
- 土地の評価・売買手続き
比較的単純なケースでも数か月を要することがあり、境界や水利関係が複雑な案件では1年以上かかる場合もあります。
土地の売却や建築時期が決まっている場合は、早い段階で相談することが重要です。
勝手に埋めたり建物を建てたりしてはいけない
現地で水が流れていない、長年自分が管理しているという理由で、次のような行為を自己判断で行うのは避けましょう。
- 水路を土砂やコンクリートで埋める
- 里道上に塀を設置する
- 建物や物置を建てる
- 駐車場として舗装する
- 排水管を切断する
- 水路の位置を変更する
- 公共用地を含めて土地を売却する
公共用財産を無断で占有・改変すると、原状回復や撤去を求められる可能性があります。
すでに建物や塀が設置されている場合も、解体や売却の前に管理者と土地家屋調査士へ相談しましょう。
土地家屋調査士に相談すべきケース
次のような場合は、土地家屋調査士への相談をおすすめします。
- 公図上の水路が敷地内を通っている
- 現地にない里道が公図に残っている
- 公図上の水路と現地の位置が合わない
- 売却前に土地の範囲を確定したい
- 里道や水路を含む土地を分筆したい
- 官民境界確認が必要
- 用途廃止や払下げに必要な測量をしたい
- 付替え用地の範囲を測りたい
- 払下げ後に地目変更や合筆をしたい
- 自宅や塀が公共用地にはみ出している可能性がある
土地家屋調査士は、公図や地積測量図などの資料調査、現地測量、官民境界確認、分筆登記、地目変更登記、合筆登記などを扱います。
用途廃止や払下げの行政手続きは自治体へ確認し、所有権移転登記は司法書士、行政申請は必要に応じて行政書士と連携して進めます。
よくある質問
Q. 現地に水路がなければ自分の土地として使えますか?
現地に水路が見えなくても、公図上の水路が公共用財産として残っている可能性があります。
暗渠や排水機能が残っている場合もあるため、管理者と境界を確認する必要があります。
Q. 昔から庭として使っていますが、時効取得できますか?
公共用財産の時効取得は、一般の私有地とは異なる複雑な問題があります。
公共の用途が廃止されているかなど、個別事情によって判断が変わるため、自己判断せず弁護士へ相談しましょう。
Q. 用途廃止をすれば必ず払い下げてもらえますか?
必ず売却されるとは限りません。
用途廃止と売却は別の判断であり、自治体が保有を継続する場合や、第三者の利用がある場合は払下げを受けられないことがあります。
Q. 水路を敷地の端へ移動できますか?
自治体などの承認を得て、付替えが認められる場合があります。
排水能力や構造、周辺への影響を確認し、代替水路を整備する必要があります。無断で移動してはいけません。
Q. 払下げを受けた土地は自動で自宅敷地と一つになりますか?
自動では一つになりません。
登記の状態や地目などの条件を確認し、必要に応じて合筆登記や地目変更登記を行います。
まとめ|公図上の里道・水路は管理者と境界を確認してから手続きを進める
敷地内に公図上の里道や水路があっても、現地に見当たらないという理由だけで自分の土地として扱うことはできません。
まず公図、登記事項証明書、地積測量図、道路・水路資料を調べ、管理者と土地の範囲を確認する必要があります。
重要なポイントは次のとおりです。
- 里道や水路は法定外公共物として管理されていることがある
- 現地に見えなくても公共用財産として残っている可能性がある
- 塀の内側や庭として使っていても自分の所有地とは限らない
- 売却・建築・分筆では土地の範囲を明確にする必要がある
- 用途廃止や払下げの前に官民境界確認が必要になる
- 公共の用途が残っている場合は用途廃止できないことがある
- 機能を残す必要がある場合は付替えを検討する
- 用途廃止されても自動的に所有権を取得できるわけではない
- 払下げには測量費、工事費、土地代、登記費用などがかかる
- 手続きは数か月以上かかることがある
- 無断で埋める、舗装する、建物を建てる行為は避ける
- 測量・官民境界確認・分筆・地目変更は土地家屋調査士へ相談する
「公図上の水路が敷地内を通っている」
「現地にはない里道が土地の売却を妨げている」
「用途廃止や払下げを検討したい」
「自宅が公共用地にはみ出している可能性がある」
このような場合は、建築や売買を進める前に、自治体の管理部署と土地家屋調査士へ相談しましょう。

監修:北川 巧(土地家屋調査士)
石川県会 第698号 / 所在地:石川県小松市 石川県土地家屋調査士
独立2年目ながらも持ち前の若さと体力を活かして、顧客への迅速で新設な対応で、日々業務に取り組んでいます。不動産の表示に関する登記や土地家屋調査士の業務について一般の方目線で分かりやすくアドバイス、解説します。

監修:北川 巧
(土地家屋調査士)
石川県会 第698号 / 所在地:石川県小松市 石川県土地家屋調査士
独立2年目ながらも持ち前の若さと体力を活かして、顧客への迅速で新設な対応で、日々業務に取り組んでいます。不動産の表示に関する登記や土地家屋調査士の業務について一般の方目線で分かりやすくアドバイス、解説します。
